2003年、小泉純一郎首相は田舎の町役場の一職員を「町役場で20年間地元の産業振興に燃えている人がいる。
島根県全体の人口が減っている中で、この町だけは住民を増やしている」
と称賛した。
小泉純一郎首相が絶賛したのは、僕の住んでいる町の役場職員で昭和26年早生まれ。年はほぼ僕と同じで学年は1年上の男だった。
名前をFと言った。F氏とは田舎のスナックでよく一緒に飲んだ。
持ち歌は橋幸夫の潮来笠だった。カラオケで一曲所望するといつも潮来笠を彼は歌っていた。彼の歌い方は情が籠っていて、今更ながら、「潮来笠はいい歌だな」と思ったわな。
F氏は役場職員だから背広にネクタイ姿だった。
その背広はよれよれ、ネクタイはいい加減に締めていて彼の姿はまっこと刑事コロンボみたいだったぜよ。
F氏本人は流れ者ヤクザ暮らしの潮来の伊太郎気分だったと思う。
僕の町に20年間君臨した町長は株好きで、町長公用車の中で株の短波放送を聞いていた。町長室に行くとやはり株の短波放送を流していた。公務の合間に草笛宅に公用車でやってきて「何か儲かる株はないかや?」と僕に聞いていた。
そんな町長だから優良企業を誘致することに熱心だった。
企業誘致係りとして町長に可愛がられていたのがF氏だった。
町長に言われて、F氏は東京、大阪、京都まで出向いて、東京1部上場の優良企業に出雲弁丸出しで「この町に来らんかね」と勧誘して歩いていた。
彼が役場で机に向かって座っていることはなかった。
町長から特命を受けていて、行動は自由、その上、ある程度の錢は自由に使えたはずだ。田舎の工業団地を視察に来る民間企業の担当者の接待に、それなりの銭を使っていたと推察。
それゆえにF氏は、交際費的に個人的に地元のスナックでも飲めたと霊視。
普通、役場の若い職員(お役人)は金銭的に恵まれておらず、自分の小遣いで夜な夜なスナックで飲んだりは出来ない。
しかしF氏は結構羽振り良く、僕と一緒に飲んでいたわな。
F氏の姿は刑事コロンボみたいで、決して都会的なスマートさはなかった。しかし、妙に企業担当者に好かれて、次々と企業誘致に成功。
20社もの企業を我が町に誘致した。それで人口減少の島根県に於いて唯一我が町だけが人口増だった。しまいには、工業出荷額で県都松江市を抜いて我が町が島根県の自治体で1位に成り上がった。
しかし企業誘致に熱心だった株好き町長が引退したあと、この町の企業誘致熱は下火になった。2003年7月、小泉純一郎首相がこのF氏を称賛した頃には、対外的にはスーパー公務員として
マスコミでも取り上げられていたが、F氏は役場内で居場所を無くしていた。
と言うのも、自然環境保護、自然回帰、農業重視、心の安らぎを重視する新町長が2003年4月に当選して、流れが変わったのであった。
役場内を肩で風を切って闊歩していたF氏を、新町長は目障りに感じた。
新町長は企業誘致のプロと呼ばれた男F氏を、商工課から農林課に配置変えした。
農業畑ではF氏の腕の振るい様がない。落ち込んでやる気をなくしていたF氏はさらに配置変えになり、2005年、役場本庁から追放されるように外郭団体の水道事業団勤務となった。お役所務めの役人とはそういう定めなのでございます。
なんぼ業績を上げていても上司に嫌われたら辞令一つで飛ばされてしまうのでありんす。
昔の町長から可愛がられて役場の花形職員だったのが一転して、新町長には嫌われて、役場とは別の建て物の水道事業団行きでした。
スーパー公務員として全国的に有名だったF氏のその後の運命はいかに?


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