地場証券店頭物語

僕は店頭派だ。ネット派の利点も十分理解はしているが、なぜか性に合わない。
浪人生のような少しネクラでオタクな雰囲気が、ネット取引に付きまとい、今一歩踏み出せない。
年齢のせい(43歳)もあるだろう。今,僕が30代前半であれば迷わずネット取引をしていたに違いない。

しかし、店頭には思ったより利点もある。特に相場に落ち込んだ時や、何がなんだか解からない時,その答えが店頭にころがっているときもある。それに50代、60代のバブルを生き残った
強者は実にいろいろな事を知っている。この株が動いた後は、この株が必ず動くとか…。
それに、人が人として生きていくには、やはり人と接していかなければ何か味気ない。

店頭には如何に色々な人物がいることか!!!
少し上がれば、あがったあがったと、大騒ぎする奴。
東証の全てのコード番号知っているのではないかと思える奴。
全く見たこともない銘柄ばかり端末に打ち込む奴。
毎日会い挨拶するが、1回も注文をする時を見たことがない奴。
新安値は必ず買い、下がれば買い、最後はいつも儲かる奴。
ポートフォリオが売り立てしかない奴。
逆日歩だけで月に120万もらった奴。

どんな人も受け入れる店頭には包容力があり、いつも誰かが得をし、いつも誰かが損をしている。
そんな店頭取引の方が、やはり僕の性に合っている。

僕がいつも行く証券会社には美人3人娘がいる。
娘といっても僕より少し年上の、元娘である。
現モデルと言っても誰も疑わない、STOP高を必ず買うA子さん。
元アナウンサーで知的そうで、倍になっても売らないB子さん。
グラマラスでいつも真っ先に降りるC子さん。

そんな3人娘に関わった少し笑えるシニカルな話である。

僕がいつも行っている証券会社は、名古屋のある町にある。地下鉄が近くにあるし、駐車場も10台あるので、時々新顔さんがやってくる。
大抵は掲示板を眺め、5分ぐらいで去って行く。

そんな3月のある日、謎の人物X氏が現れた。

僕はいつものように、8236丸善:5958三洋工業:5936東洋シャッターなどを端末に打ち込み眺めていた。
(おまえは仕手しか買ってないのか?と笑われそうですが、優良株はボードで見られます。)
X氏がそばに寄って来た。『どうぞ打ち込んで下さい。』と僕は言った。
しかし、彼はじっと端末を見ている。どうやら彼も同じ銘柄に興味があるらしい。

そのうち、丸善が新値を取り、売り方を閉じ込めたとか、三洋工300万株のあっと驚く現引き作戦とか、話が弾んだ。
やはり同じ銘柄を持っていると親近感がわくのか、彼は次第に饒舌になってきた。
『丸善、近近STOPやりますので、その日か次の日には逃げて下さいね。
完全にSTOPに張り付いたら売り注文を出し、引け間際に取り消せば良いでしょう。』
とX氏は言った。僕は『どうしてそんな事が解かるのですか?』と聞いた。
彼は小声で『加藤から電話がありました。』名前を呼び捨てで言った。
『加藤ってあの誠備グループの加藤さんですか?』彼は黙ってうなずいた。

(;¬_¬) ぁ ゃι ぃ

年の頃は50過ぎ、キチットした背広は着ているが、時計は僕と同じ安いローレックス。
靴も安っぽい。どこかの部長さんタイプだ。
とても平気で何10億も株に投入できるお金持ちには見えない。

どうやら、どこかの有料情報を貰っている輩であろう。しかし貴重な情報である。
僕はありがとうございますと頭を下げ、彼は帰っていった。

それから5日後、丸善は本当にSTOP高した。

翌々日、X氏がやって来た。『うまいこと逃げれましたか?』『ハイ、お蔭様で。』
『それはよかったですね』この時、僕は彼のことを少し信用した。
                        
        
証券会社の店頭は、午前中は結構空いているのだが、午後になるとだんだん人が増えてくる。
日経平均が大幅高の大引けなど、座る席が無い程混み合う。
しかし、連日10億株も商いができているのに、注文を出している人は、以前より減ってきているようだ。やはり皆、縮小貧乏に泣かされているのだろうか?

3人娘も2時頃やって来る。謎の人物X氏はいつも午前中に来ていたので、彼女らと面識はない。
3月22日、X氏が珍しく昼過ぎから来ていて、僕と丸善の行く末などを語っていた。
2時10分頃だったろうか、X氏のケイタイがけたたましく鳴った。入り口に向って歩きながら彼は二言三言、言葉を交わし、今度は慌ててケイタイの番号を押し、注文を出している。
かすかに、『2万』と言う言葉だけ聞こえた。
余りにも慌ただしかったので、彼が戻ってきた時に聞いてみた。
『何か、動きだしましたか?』
『5936東洋シャッターすぐ買え』と小声で言った。
今度は僕の方が慌てて端末に向って走った。
さっきまで110台だったのにもう130円を超えている。出来高も急激に増えている。
明らかにキテイル。取り敢えず10000株成行きで買ってみた。
そのやり取りを見ていたA子とB子と株仲間のK君が、何を買ったか聞いてきたので、『シャッターを買った』『なんで?』『あの人にどっかから情報が入ったみたい』
とX氏を見て言った。まずK君が端末を見ながら10000株買いにいった。
A子とB子も迷った末2000株買った。
僕らの様子をx氏は黙って見ていた。
僕は彼に聞こえるようにわざと大きな声で『シャッター2000株買った』と言った。

賢明な読者は解かっているだろう。、草笛氏の物語に出てくる極悪人のように後から『おいおい、誰の御蔭で儲けたと思っているんだ!!!』と凄まれても困らないためだ。
X氏が極悪人に変身するか、ただの気のいいおじさんだったか? 

翌日僕等は、期待満々で証券会社へやって来た。
前々日の出来高20万株、前日の出来高2時過ぎだけで200万株、騰がらない方がオカシイ。
寄り付き買い気配。あたりまえだ。寄り付いてからも皆、上値上値と買っていく。しかし、『こりゃーSTOPいくかもね。』株仲間のK君が言った時が、天井だった。
155円をなかなか抜けない。僕等の買値(137−140円)どころか、昼からは120円台まで突っ込んでいく…。

2時過ぎにいつものように美人3人娘がやって来た。前日用事があって来られなかったC子が『シャッター買ったんだってー?』と僕に振ってきた。そのときはまだ強気だったので『C子さんもお一つどうですか? 今買えば、僕等の買値より安いですよ。』と言ったものの、人は下がっている株には、興味はもてないのか、やはり買わなかった。
A子もB子もまだX氏を信用しているのか、『155円まで行ったのに何で下がってきたのかねー』
とのんびり構えていた。しかし、それから3日間140円を挟んで全く動かなかった。

野次馬の古参たちは『ハメ込みダヨ。早く投げた方が良い。』と言うし、C子も『わーい、騙されたー』と言うし、K君も『X氏って信用できる?』と言う始末。
皆がイライラし始めた時、謎の人物X氏が引け前にやって来た。A子とB子が僕を小突き、聞いて来いと言うので仕方なく、X氏のところへ歩いていった。
『シャッター動きませんねー』と僕は言った。彼はニヤリと笑ってこう答えた。
『イヤー実を言うと提灯が付き過ぎましてね。筋が予定数仕込む前に上がったらしいです。
130円台前半で、もう少し仕込んだら200円はいくでしょう』

僕は彼が嘘を言っているようには思えなかった。
とにかく僕はもう少し様子を見ることにした。110円を割り込めば、投げればいいし、上は200円だ。儲かる方がはるかに、確率は高い。

それから2日後、7000株の買い気配から145円で寄り付き、ドンドン上がった。
節の155円を抜いた時、それまでじっと見ていたS君が成行きで3万株買いに行った。
彼は本当に相場がうまい。彼だけが他に職業がない。つまりこれで飯を喰っているプロだ。
結局、東洋シャッターは185円高値引けで終わり、翌日、213円まで行った。
A子とB子はなんと寄り付きの145円で売っていた。
C子は何でもっと強く奨めなかったと後から言った。
僕とK君は200円で売りそこそこ儲けた。
180円で売ったS君はたった1日で一番儲けた。
外野席の古株達は、苦虫を潰している。
X氏はあれ以来顔を見せない。謎の人物X氏は、やはり謎を残して去っていった。

証券会社の店頭には、実に色々な人達が、色々な考えの基に投資をしている。
今回は、僕らが勝利したが、勿論美人3人娘や古株達が勝つ時もある。

そのときは素直にその話に乗っていく柔軟な投資家になりたいと思います。
こんな証券会社の店頭を、たまには覗いてみてはいかがですか?
あなたの隣に座っているのがX氏かもしれません。

                       終わり。

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